デザインにおける暗黙のバイアスの認識

UXデザインにおいて、私たちはつい自分の視点や経験を基に意思決定をしてしまいがちです。しかし、そこに潜むのが「暗黙のバイアス」。無意識にユーザーを限定してしまうことで、真にインクルーシブな体験が損なわれているかもしれません。本記事では、UXリサーチや設計に潜む偏見のリスクとその対処法を、具体的な事例とともに解説します。

暗黙のバイアスとは?

「暗黙のバイアス(Implicit Bias)」とは、私たちが無意識のうちに持っている特定の人やグループに対する態度や先入観のことです。たとえその人がどうであるかにかかわらず、年齢・性別・職業・出身地といった表面的な情報だけで「こういう人だろう」と判断してしまう危険性があります。

UXデザインにおいてこのバイアスが入り込むと、ユーザーの多様性を無視した、限定的な製品設計につながる可能性があります。

事例1:スマートフォン前提のユーザー体験設計

ある行政関連のサービスアプリの設計プロジェクトで、デザイナーは「すべての人がスマートフォンを使っている」と無意識に想定し、レスポンシブ対応はスマートフォン中心で設計を進めました。しかし、実際には高齢者の多くはフィーチャーフォンやPCからアクセスしており、重要な機能にたどり着けないという課題が発生。

「誰でもスマホを使っている」という前提が、ユーザーの一部を排除してしまった例です。

事例2:ユーザー名の入力仕様で起きた排除

あるECサイトで、会員登録時に「姓」と「名」の入力フィールドを必須にしていたが、外国籍ユーザーから「ミドルネームしか使っていない」「名字がない文化圏なので登録できない」といった声が上がりました。

このように、「日本人の名前構成が世界共通である」という暗黙のバイアスが、グローバルユーザーに不便を与える結果となっていました。

事例3:「音声での操作ができる」=「誰でも使いやすい」と思い込む

バーチャルアシスタントを活用した予約サービスで、開発チームは「音声操作こそが未来」として、音声操作UIを軸に設計。しかし、吃音症や発話に困難のあるユーザー、また騒音環境下で働くユーザーにとっては操作が困難で、使い勝手が著しく損なわれてしまいました。

これは、「音声は誰でも使える」「直感的である」といった思い込みによるUXの失敗例です。

ペルソナやユーザージャーニーでバイアスを防ぐ

このような偏りを防ぐために重要なのが、多様なペルソナとユーザージャーニーの設計です。ペルソナは「架空の代表的なユーザー像」ですが、民族・年齢・性別・身体的能力・経済状況などを限定せず、さまざまな視点を網羅することが求められます。

ユーザージャーニーは、サービスやプロダクトにたどり着くまでの道のりを理解する手がかりになります。実際の体験をもとにした設計は、無意識のバイアスを乗り越える助けになります。

まとめ

UXデザイナーが直面する「暗黙のバイアス」は、知らず知らずのうちにユーザーを排除してしまうリスクがあります。インクルーシブな体験を設計するためには、自分自身の視点や前提に意識を向け、多様なユーザー像を想定した設計・調査が欠かせません。ユーザー調査やペルソナ設計は、バイアスから自由なUXデザインを実現する第一歩です。