“ちょうどよさ”が体験を変える──段階的開示と情報設計のヒント

情報が多すぎると、ユーザーは動けなくなる

Webサイトやアプリの設計において、「ユーザーのために、すべての情報を載せておきたい」と考えるのは自然なことです。
しかし実際には、情報が多すぎると、かえってユーザーの行動は鈍くなります。理由はシンプルで、私たちの脳には一度に処理できる情報の量に限界があるからです。この現象は「認知的負荷(Cognitive Load)」と呼ばれ、UX設計の観点からも重要な課題とされています。

今、必要な情報だけを──段階的開示とは

段階的開示(Progressive Disclosure)は、ユーザーにとって必要なタイミングで、必要な情報だけを提示する設計手法です。すべてを一度に見せるのではなく、「まずは基本情報 → 次に詳細」と階層的に開示することで、理解と操作がスムーズになります。

具体例:

  • フォームUI:10項目の入力フォームを「ステップ1/3」のように分割し、段階的に表示する
  • FAQ:質問一覧だけを表示し、「+」アイコンをクリックすると答えが展開されるアコーディオン式UI
  • 製品スペック表:主要スペックのみを最初に表示し、詳細な技術情報は「詳しく見る」で開示する

こうした工夫によって、ユーザーはストレスなく情報にアクセスでき、「考えずに進める」体験を実現できます。

人は一度に4つまでしか覚えられない?

認知心理学者ネルソン・コーワンは、人間のワーキングメモリ(短期記憶)は平均4つ程度までしか同時に保持できないと指摘しています。
これは、電話番号が「03-1234-5678」のようにハイフンで分割されている理由でもあります。脳は、情報をグループ化(チャンク化)することで記憶しやすくなるのです。

Web設計での応用:

  • ナビゲーションメニューの項目数を5〜7個以内に抑える
  • 比較表の項目を重要な指標に絞って表示
  • 「もっと見る」ボタンを活用して段階的に情報を展開

情報をグループに分けたり、必要な分だけ見せたりすることで、ユーザーの理解と記憶は飛躍的に高まります。

ボタン文言にも“情報負荷”は潜む

情報負荷は、視覚的な情報量だけに限りません。ボタンの文言や操作指示の言い回しも、認知的負荷に影響します。

例:

  • 「登録フォームへ進む」→ 行動を明確に示しており、理解しやすい
  • 「こちら」や「次へ」→ 文脈依存が高く、何が起こるのか分かりにくい

ユーザーが“この先に何があるか”を瞬時に判断できるよう、言葉選びにも設計の意図が必要です。

「何を伝えるか」より「何を引くか」から考える。それが情報設計でありデザインです

UXにおいては、「どんな情報を載せるか」と同じくらい「何を見せないか」が重要です。
伝えたいことをすべて詰め込むのではなく、必要な情報を見極めて構造化し、ユーザーにとって分かりやすい形に整えること。
それこそが、情報設計であり、デザインの出発点です。

実際、優れたUIほどシンプルで、必要なときに必要なことだけを伝える“控えめな設計”をしています。
情報設計は、見た目の装飾ではなく、「何を見せ、何を引くか」の判断を積み重ねた“思考の設計”です。

まとめ

ユーザーにとって心地よい体験とは、情報が整理され、必要なときに必要な情報だけが届くことにあります。段階的開示や認知的負荷の軽減は、操作のしやすさや理解のしやすさに直結します。
情報設計とは“削ること”から始まる行為です。何を伝え、何を削ぎ落とすかを判断し、構造として組み立てていくこと。それは見た目だけではない、体験そのものをデザインするということにほかなりません。
サンアンドムーンでは、情報の「量」ではなく「届け方」にこだわり、“考えずに使える”体験を設計しています。

参考リンク