オンラインで買い物をしていて、電話番号を入力したら突然「無効な形式です」と表示された経験はないでしょうか。何が「無効」なのか、どう直せばいいのか、何もわからないまま画面だけが赤くなる——あの瞬間の、じんわりとした居心地の悪さ。あれは、デザインの失敗です。人はミスをします。しかし、そのミスの後に何を見せるかは、設計者が決められます。UXデザインの出発点を「人間理解」に置くとは、エラーという小さな瞬間にも、ユーザーの感情と行動を丁寧に設計することから始まります。サンアンドムーンは、その「小さな瞬間」の積み重ねこそが、サイト全体への信頼をつくると考えています。
エラーメッセージが「感情」に与える影響
エラーメッセージを目にしたとき、人の脳は単に「情報を読む」のではなく、感情的な反応を起こします。「自分がバカなのかな」「このサイト、壊れてるのかな」——この2つの感情は、どちらもサービスへの不信感につながります。
Susan Weinschenkが強調するのは、人はエラーを「自分のせい」と感じやすい、という点です。特に、技術的な言葉や命令口調のメッセージは、ユーザーに強い不快感と無力感を与えます。「必須項目が未入力です」という一言は事実を伝えていますが、「どの項目を」「どう入力すれば」という導きがなければ、ユーザーは手がかりなく画面と向き合うことになります。
一方で、温かみのある言葉遣いと具体的な案内があれば、エラーはむしろ「このサイトは親切だ」という好印象を生むチャンスにもなります。ミスが起きることを前提に設計する考え方については、「ユーザーは、必ず間違える|エラー前提設計」もあわせてご覧ください。エラーメッセージの文言は、その設計思想を言葉で表現したものです。
原則①「責める」より「説明する」
エラーメッセージ文言の第一原則は、「誰が悪いか」を示すのではなく、「何が起きているか」をわかりやすく説明することです。
ありがちな悪例は「エラーが発生しました」という一文。これは情報量がゼロに等しく、ユーザーをすっぽりんにするだけです。「入力内容に問題があります」も大差ありません。問題があることはユーザー自身がわかっているからです。
改善するなら、「メールアドレスの形式が正しくないようです(例:name@example.com)」のように、何が起きているかを具体的に示します。ポイントは「〜のようです」という柔らかな語尾です。断定ではなく示唆にとどめることで、ユーザーを責める印象が薄れ、「一緒に解決しようとしている」雰囲気が生まれます。脳は命令に反発し、提案には応じやすい——この心理の仕組みを、文言の設計に活かしましょう。
原則②「何を直すか」を具体的に示す
第二原則は、エラーの説明だけで終わらず、「次に何をすればいいか」を明示することです。これが、文言設計においてもっとも行動変容に直結する部分です。
たとえばパスワードのエラーであれば、「パスワードが違います」で止めるより「パスワードは8文字以上で、英字と数字を含めてください」と書くほうが、ユーザーは迷わず次の行動を取れます。電話番号フォームなら「ハイフンなしの10〜11桁で入力してください」と伝えれば、「どう入力すればいい?」という問いが一瞬で解決します。
人の作業記憶(ワーキングメモリ)は非常に容量が小さく、エラーが出た瞬間は認知的な負荷が高まっています。そのタイミングで「考えさせる」より「答えを見せる」ほうが、ユーザーへの負担を減らせます。また、操作後にすぐフィードバックが返ってくることの重要性については、「フィードバックがないと、人は続けられない——即時フィードバックの設計反応の即時性」でも詳しく解説しています。エラーメッセージも、この即時性の延長線上にある設計です。
原則③「人の言葉」で書く
第三原則は、システム目線の言葉ではなく、人が人に話しかけるような言葉で書くことです。これが、もっとも見落とされがちで、もっとも効果の大きい原則です。
「Invalid input(無効な入力)」「Authentication failed(認証失敗)」のような英語由来の技術用語は、一般ユーザーには意味が伝わりません。日本語に直してもそのままでは「認証に失敗しました」という冷たい事実の羅列になりがちです。
代わりに「メールアドレスまたはパスワードが合っていないようです。もう一度確認してみてください」と書けば、同じ内容でもまるで印象が変わります。「人の言葉」には3つの要素があります。①主語と原因が明確、②次のアクションが書いてある、③語尾が柔らかい。この3点を意識するだけで、エラーメッセージは「壁」から「道案内」に変わります。なお、エラーが起きた後の「やり直せる」設計については、「『やり直せる』が、信頼を生む|Undo・取り消し可能性」もあわせて読むと、一連の流れとして理解が深まります。
まとめ
エラーメッセージは、ユーザーがもっとも不安を感じる瞬間に届く言葉です。だからこそ、責める言葉ではなく、説明し・導き・寄り添う文言が求められます。今回の3原則——「説明する」「次を示す」「人の言葉で書く」——は、大きな開発コストをかけずに今すぐ取り組める改善です。エラーをなくすことよりも、エラーが起きたときにどう振る舞うかがサイトの品格を決めます。ユーザーが迷わず前に進めるエラーメッセージの設計が、信頼されるWebサイトへの第一歩になります。
記事監修

中谷 浩和
株式会社サンアンドムーン|代表取締役
1976年創業のデザイン事務所を前身に、Webコンサルティング・UI/UXデザインを専門とする。
国際標準のUX設計プロセスを学ぶ Google UX Design Professional Certificate を取得し、 上級ウェブ解析士 としてデータ主導のサイト改善にも精通。デザイン思考を軸に、ユーザー認知・行動・文脈からWebサイトの課題を捉え直し、成果につながる設計へ落とし込むことを使命としている。システム設計、フロントエンド技術、SEO・パフォーマンス改善まで技術知識を横断し、サイト全体を見通したディレクションを得意とする。自動車メーカー、銀行・クレジットカード、保険などの大手から中小企業まで、数値で検証しながら改善を積み重ねる実践的なコンサルティングを提供している。





























