前回の記事では、「ゴールデンサークル理論とは何か」をブランド設計やマーケティングの観点から解説しました。今回はその第二弾として、「人間の脳の構造」にフォーカスし、なぜこの理論が人を動かすのかを掘り下げていきます。
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「伝える順番」が、心を動かす順番になる
ゴールデンサークル理論は、マーケティングやブランディングだけでなく、人間の「脳の働き」にも深く関係しています。ただ言葉を工夫するのではなく、脳が情報を処理する順番に合わせて伝えることで、理解と共感の質が大きく変わります。
私たちは何かを判断するとき、まず感情で「感じて」、次に理屈で「納得」します。ゴールデンサークル理論は、この順番を可視化したシンプルで強力なフレームワークなのです。
ゴールデンサークル理論とは
サイモン・シネック氏が提唱したこの理論は、「Why(なぜ)→ How(どうやって)→ What(何を)」という3つの問いを、中心から外へと広がる同心円で表現します。多くの企業は「何を売っているか(What)」から話し始めますが、共感されるブランドは「なぜそれをするのか(Why)」から語ります。
この理論の核心は、行動や選択の原動力となるのは機能や価格ではなく、その背後にある信念や目的であるということ。共感を軸としたブランド設計や、意味を重視するUI設計とも親和性の高い考え方です。
ゴールデンサークルと脳の構造:3つの階層はどこに対応するか
ゴールデンサークル理論は、「Why → How → What」という情報の伝達順序を提示しています。この構造は、実は私たちの脳が情報を処理する順番と驚くほど一致しています。
中心にある「Why(なぜ)」は、感情や本能的な判断を担う「大脳辺縁系(limbic system)」に対応します。ここは、人間が「快・不快」や「信頼・不信」を直感的に判断する部分であり、言語を使わずとも物事の“意味”を理解しようとする領域です。
中間の「How(どうやって)」は、行動の計画や手順、実行に関係する領域と重なります。大脳皮質の一部や前頭前野が関わり、「納得して動く」ための橋渡しとして機能します。そして最も外側の「What(何を)」は、大脳新皮質(neocortex)──特に言語や分析を司る部位に対応します。
ゴールデンサークルと脳構造の対応
| ゴールデンサークル | 対応する脳の部位 | 主な役割・機能 |
|---|---|---|
| Why(なぜ) | 大脳辺縁系 (limbic system) | 感情、直感、信念、意思決定の起点 |
| How(どうやって) | 前頭前野・ 大脳皮質の一部 | 行動の計画、手順、実行に向けた準備 |
| What(何を) | 大脳新皮質 (neocortex) | 言語、論理的思考、分析、説明 |
なぜ「Why」が脳の中心にあるのか:意思決定の順序と構造
人間の脳は、外部からの刺激を受けたときに、まず感情を司る「大脳辺縁系(limbic system)」が反応し、その後に論理や言語を処理する「大脳新皮質(neocortex)」が働くという順序で情報を処理します。これは、脳の進化的な構造によるものです。
大脳辺縁系は、脳の内側かつ深部に位置し、進化的に最も古い部分とされています。生存本能や恐怖、快・不快の判断をつかさどり、「好き」「嫌い」「信頼できる」「違和感がある」といった感情反応がここで瞬時に生じます。言語を介さないため、直感的かつ即座な判断が可能です。
その後、「ではどう動くか(How)」「具体的に何を選ぶか(What)」というステップが、前頭前野や新皮質の領域で検討されていきます。このように、意思決定の出発点はあくまで「なぜ?」という感情的理解にあり、理性はそれを補完する存在なのです。
意思決定プロセスと脳内の対応関係
| 意思決定のステップ | 脳の部位 | 主な働き |
|---|---|---|
| 直感的な 判断(Why) | 大脳辺縁系 | 感情・本能・価値観の評価。 信頼・恐怖・共感を瞬時に判断 |
| 行動の 選択肢を考える(How) | 前頭前野 | 感情と論理をつなぐ。 行動計画、選択肢の検討 |
| 言語化・ 説明・実行(What) | 大脳新皮質 | 言語、論理的思考、理由付け。 外部への説明を可能にする |
この順序を無視して「What(何)」から語り始めると、理屈では理解できても心に響かず、行動にはつながりにくくなります。逆に「Why(なぜ)」から始めることで、脳の処理順に合った自然な説得力が生まれるのです。
UI/UX設計への応用:感情から導く設計
サンアンドムーンでは、UI/UX設計においてもこの「内→外」の思考順序を意識しています。たとえばWebサイトのファーストビューで「そのサービスが存在する理由(Why)」を提示し、そのあとに「使い方(How)」「詳細な機能(What)」へと導く構成を取ることで、ユーザーの共感と理解を自然な流れで高めています。
こうした構造を意識するだけで、「クリックさせる」だけでなく「納得して動いてもらう」UIが実現できます。感情から入る設計は、離脱を防ぎ、印象を残す鍵になります。
まとめ
ゴールデンサークル理論は、単なる伝え方のテクニックではありません。人間の脳が「なぜ」に反応し、「どうやって」「何を」に納得するという構造に基づいた、本質的な伝達論です。
サンアンドムーンでは、この「内側から伝える設計思想」を、ブランドづくり、UXデザイン、Web戦略に組み込むことで、共感と行動につながる体験を提供しています。脳の順番で伝える。それは、心を動かすもっとも自然な方法なのです。































