先週のミーティングで話し合ったこと、どこまで覚えていますか? 最初の議題と最後に決まったこと——なんとなく頭に残っているのに、中盤の内容はもやがかかったように思い出せない。そんな経験は、きっと誰にでもあるはずです。これは記憶力の問題ではなく、人間の脳が持つ「仕組み」のひとつです。UXデザインの出発点を「人間理解」に置くとは、こうした脳の特性を設計に織り込むことから始まります。サンアンドムーンは、「情報の並べ方」こそが記憶に残るUIを生み出す鍵だと考えています。
「最初」と「最後」が記憶に刻まれる理由
心理学の実験で繰り返し確認されてきた「系列位置効果(Serial Position Effect)」は、ふたつの現象から成り立っています。ひとつは「初頭効果(Primacy Effect)」——リストの最初のほうにある情報は、時間をかけて処理されるため長期記憶に移行しやすいという性質です。もうひとつは「新近性効果(Recency Effect)」——最後のほうに受け取った情報は、まだ作業記憶(短期記憶)に残っているため、すぐに思い出しやすいという性質です。
一方、リストの「中盤」にある情報はどちらの恩恵も受けられず、最も記憶に残りにくくなります。学校の教科書でも、授業の中盤がぼんやりしがちなのはこのせいです。人の脳は公平に情報を処理してくれるわけではありません——「いつ受け取ったか」が、記憶の定着を決定的に左右するのです。
Webページの「情報の並べ方」が印象を決める
この効果は、Webサイトの設計に直接つながります。たとえば、サービス紹介ページで三つの特長を並べるとき、最も伝えたいメッセージをどの位置に置くかで、読者の記憶に残る内容はまったく変わってきます。強みが中盤に埋もれていたとしたら、どれだけ優れた内容でも記憶されにくいのです。
問い合わせフォームの確認画面も同じです。入力内容を何行も並べた後で最後に「送信する」ボタンが来るのは、新近性効果を自然に活かした構成です。直前に「確認の行為」があるからこそ、ユーザーは安心してボタンを押せます。逆に、重要な注意事項を中盤にだけ記載している場合、それが読まれていない・記憶されていないリスクは高くなります。UIデザインを成功に導く10のガイドラインでも「情報の優先度と配置」は重要な原則として挙げられています。
「何を伝えるか」と同じくらい、「どの順番で伝えるか」が、ユーザーの記憶と行動を左右する——それがWebデザインにおける系列位置効果の本質です。
「最後の印象」がブランド記憶をつくる
新近性効果は、ページの末尾だけでなく、ユーザーとのやりとりの「締め方」にも深く関わっています。問い合わせ送信後のサンクスページ、購入完了画面、資料ダウンロード後の画面——これらはユーザーとのひとつの「体験の終わり」です。ここで何を伝えるかが、そのブランドへの記憶を決定づけます。
素っ気ない「送信が完了しました」という一行で終わるページと、「ありがとうございます。〇〇営業日以内にご連絡いたします」と丁寧に添えられたページでは、ユーザーが翌日その会社について語るときの言葉がまったく違ってきます。体験の最後に届けた言葉が、記憶に最も鮮明に残るからです。これはオペラント条件付けとUXデザインの観点からも、行動後のポジティブなフィードバックが次の行動意欲を育てるという原理と重なります。
「最後をどう締めるか」の設計が、ブランドへの信頼と好意を長く記憶させる鍵です。
「中盤の埋没」を防ぐ、小さな設計の工夫
では、どうしても中盤に重要な情報を置かなければならないときはどうすればいいでしょうか。答えは「中盤を中盤のままにしない」工夫です。見出しや強調テキスト、アイコン、囲み枠——こうした視覚的なアクセントは、記憶の弱点を補う有効な手段です。人の目はページを流し読みするとき、視覚的な「突起」に引き寄せられます。中盤にある情報でも、見出しで区切ることで「ひとつの始まり」として処理させることができるのです。
また、長いページを設計するときは「まとめ」を末尾に置く構成が効果的です。重要なポイントを最後にもう一度届けることで、新近性効果をこちら側でコントロールできます。これはゴール勾配効果と組み合わせると特に強力で、「あと少し」という感覚と「重要なことを最後に置く」構成が重なることで、ユーザーをページの末尾まで自然に引き寄せることができます。
大切な情報を中盤に埋もれさせない。小さな設計の工夫が、伝わるWebサイトと伝わらないWebサイトを分けるのです。
まとめ
人の記憶は、情報を受け取った「順番」に強く影響を受けます。最初に見た情報(初頭効果)と最後に見た情報(新近性効果)は記憶に残りやすく、中盤の情報は埋もれやすい——これが「系列位置効果」です。Webページでは、最も伝えたいメッセージを冒頭か末尾に配置し、体験の締め方(サンクスページや完了画面)にも丁寧に言葉を届けることが、ブランドへの記憶をつくります。中盤に重要な情報を置く場合は、視覚的なアクセントで「新たな起点」を演出することが有効です。情報の「中身」と同じくらい「並べ方」を意識することが、記憶に残るWebサイトへの第一歩になります。
記事監修

中谷 浩和
株式会社サンアンドムーン|代表取締役
1976年創業のデザイン事務所を前身に、Webコンサルティング・UI/UXデザインを専門とする。
国際標準のUX設計プロセスを学ぶ Google UX Design Professional Certificate を取得し、 上級ウェブ解析士 としてデータ主導のサイト改善にも精通。デザイン思考を軸に、ユーザー認知・行動・文脈からWebサイトの課題を捉え直し、成果につながる設計へ落とし込むことを使命としている。システム設計、フロントエンド技術、SEO・パフォーマンス改善まで技術知識を横断し、サイト全体を見通したディレクションを得意とする。自動車メーカー、銀行・クレジットカード、保険などの大手から中小企業まで、数値で検証しながら改善を積み重ねる実践的なコンサルティングを提供している。


























