今回のテーマは、段階的開示と情報設計のヒントです。情報が多すぎるとユーザーは動けなくなるという認知的負荷の問題を、UI/UX設計の視点から整理していきます。
Webサイトやアプリの設計において、「ユーザーのために、すべての情報を載せておきたい」と考えるのは自然なことです。しかし実際には、情報が多すぎると、かえってユーザーの行動は鈍くなります。私たちの脳には一度に処理できる情報の量に限界があり、この現象は「認知的負荷(Cognitive Load)」と呼ばれます。私たちサンアンドムーンが情報設計の出発点を「何を伝えるかより何を引くか」に置くのは、削ぎ落とす判断の積み重ねこそが、ユーザーに届く設計をつくると考えているからです。
今、必要な情報だけを——段階的開示とは
段階的開示(Progressive Disclosure)は、ユーザーにとって必要なタイミングで必要な情報だけを提示する設計手法です。すべてを一度に見せるのではなく、「まずは基本情報 → 次に詳細」と階層的に開示することで、理解と操作がスムーズになります。たとえば、10項目の入力フォームを「ステップ1/3」のように分割して段階的に表示すること、FAQ では質問一覧だけを表示して「+」アイコンで答えが展開されるアコーディオン式UI、製品スペック表では主要スペックのみを最初に表示し詳細は「詳しく見る」で開示する、といった工夫がその例です。こうした設計によって、ユーザーはストレスなく情報にアクセスでき、「考えずに進める」体験が実現します。
脳は一度にいくつまで覚えられるか
認知心理学の研究によれば、人間のワーキングメモリ(短期記憶)は平均4チャンク程度までしか同時に保持できないとされています。これは、電話番号が「03-1234-5678」のようにハイフンで分割されている理由でもあります。脳は情報をグループ化(チャンク化)することで記憶しやすくなるのです。Web設計への応用として、ナビゲーションメニューの項目数を少数に抑えること、比較表の項目を重要な指標に絞って表示すること、「もっと見る」ボタンを活用して段階的に情報を展開すること——こうした工夫によって、ユーザーの理解と記憶は飛躍的に高まります。
ボタン文言にも”情報負荷”は潜む
情報負荷は、視覚的な情報量だけに限りません。ボタンの文言や操作指示の言い回しも、認知的負荷に影響します。「登録フォームへ進む」は行動を明確に示しており、理解しやすい例です。一方で「こちら」や「次へ」は文脈依存が高く、何が起こるのかわかりにくい例として挙げられます。ユーザーが「この先に何があるか」を瞬時に判断できるよう、言葉選びにも設計の意図が必要です。
「何を伝えるか」より「何を引くか」から考える
UXにおいては、「どんな情報を載せるか」と同じくらい「何を見せないか」が重要です。伝えたいことをすべて詰め込むのではなく、必要な情報を見極めて構造化し、ユーザーにとって分かりやすい形に整えること。それこそが情報設計であり、デザインの出発点です。優れたUIほどシンプルで、必要なときに必要なことだけを伝える控えめな設計をしています。情報設計は見た目の装飾ではなく、「何を見せ、何を引くか」の判断を積み重ねた思考の設計なのです。
まとめ
ユーザーにとって心地よい体験とは、情報が整理され、必要なときに必要な情報だけが届くことにあります。段階的開示や認知的負荷の軽減は、操作のしやすさや理解のしやすさに直結します。情報設計とは”削ること”から始まる行為です。何を伝え、何を削ぎ落とすかを判断し、構造として組み立てていくこと——それは見た目だけではない、体験そのものをデザインするということです。「ちょうどよさ」の設計を積み重ねることが、考えずに使える体験への第一歩になります。
記事監修

中谷 浩和
株式会社サンアンドムーン|代表取締役
1976年創業のデザイン事務所を前身に、Webコンサルティング・UI/UXデザインを専門とする。
国際標準のUX設計プロセスを学ぶ Google UX Design Professional Certificate を取得し、 上級ウェブ解析士 としてデータ主導のサイト改善にも精通。デザイン思考を軸に、ユーザー認知・行動・文脈からWebサイトの課題を捉え直し、成果につながる設計へ落とし込むことを使命としている。システム設計、フロントエンド技術、SEO・パフォーマンス改善まで技術知識を横断し、サイト全体を見通したディレクションを得意とする。自動車メーカー、銀行・クレジットカード、保険などの大手から中小企業まで、数値で検証しながら改善を積み重ねる実践的なコンサルティングを提供している。



























