見えているのに、間違える理由──目と脳が生む“錯覚”の正体

見えているのに、間違える理由──目と脳が生む“錯覚”の正体

私たちは「見えているもの=正しい」と思いがちですが、実際には、目に映った情報をそのまま認識しているわけではありません。人間の視覚は、目で受け取った情報を脳で解釈するプロセスを通して「現実らしきもの」を再構成しています。
この「再構成」の過程で、認識のズレ──つまり「錯覚」が起こることがあります。今回は、目と脳の役割、そして錯覚の仕組みについて見ていきましょう。

目が受け取る「不完全な」情報

人の視界は、中心視野で捉えられる領域はわずか2度程度と狭く、周囲の多くの情報は「ぼんやりと」しか認識されません。しかし、脳はそれを「補完」することで、あたかもすべてが見えているような感覚を作り出します。
たとえば、背景と同化している物体も「そこにあるはず」と予測して認識したり、一部しか見えていない文字も「たぶんこうだ」と補完したりします。このように、私たちの視覚は常に“仮説”で現実を構築しているのです。

錯覚が起こるメカニズム

視覚的な錯覚(Visual Illusion)は、脳が「通常のルール」で情報を解釈しようとした結果、現実とズレが生じることで発生します。以下の表では、UXや情報設計にも関係の深い、代表的な視覚錯覚を分類・解説しています。

分類概要代表例
幾何学的錯覚線や形が背景や周囲の影響で歪んで見えるミュラー=リヤー錯視、ポンゾ錯視
色の錯覚同じ色でも、隣接する色によって違って見えるチェッカーシャドウ錯視、マッカロー効果
運動の錯覚静止画像が動いて見える現象蛇の回転錯視、ロータリー錯視
大きさの錯覚同じサイズのものが大きく/小さく見えるエビングハウス錯視(タネンバウム効果)
遠近・奥行き錯覚距離や奥行きを誤って認識するアメスの部屋、トリックアート
認知的錯覚先入観や意味づけによって誤認するルビンの壺、カニッツァの三角形

これらは、脳が「過去の経験」や「物理世界の前提知識」をもとに無意識に補正をかけているために起こるものです。

UXデザインにおける錯覚の応用と注意点

ポジティブな活用例

  • 立体感の演出:シャドウやグラデーションを使い、「押せそう」「浮いている」と感じさせる
  • 視線誘導:パースや奥行きを利用して、視線を特定の場所に導く
  • スピード感の演出:背景をぼかすことで、前景にあるものが“速く動いている”ように見せる

注意すべき落とし穴

  • 誤認識の誘発:リンクと間違えるデザイン、タップできそうでできないUI
  • ユーザーの疲労:過度な錯視表現は、可読性や操作性を損ねることがある

錯覚はあくまで「人間の視覚のクセ」を利用する手法であり、それを“騙す”のではなく、“導く”設計に使うことが大切です。

脳は“見たいもの”を見る

興味深い研究として、脳は「実際に見えているもの」よりも、「見たいと期待しているもの」を優先的に処理する傾向があることが知られています。たとえば、有名な“バスケットボール動画”でゴリラの着ぐるみが登場する実験(選択的注意)では、多くの人がそれに気づきません。
つまり、「ユーザーが注目している情報」以外は、存在していても“見えていない”ことになるのです。

まとめ

人の視覚は、カメラのように“そのまま”現実を写しているわけではありません。目は情報を受け取り、脳がそれを解釈し、「意味のある像」を構築しています。
錯覚はそのプロセスの副産物であり、ユーザー体験においては「直感的に正しく伝える」ことの難しさと重要性を教えてくれます。
UI/UXデザインにおいては、この「目と脳のズレ」を理解し、正しく活用することが、信頼性と心地よさにつながる設計につながるのです。

参考リンク