今回のテーマは、デザインにおける「階層」の考え方です。情報に優先順位をつけ、ユーザーの視線を自然に導く設計の仕組みを、UXの視点から見つめ直していきます。
デザインの現場では「見た目の美しさ」や「ブランドイメージ」が先行しがちですが、ユーザーにとって本当に重要なのは「情報にたどり着けるかどうか」です。そこで必要となるのが「階層」という考え方です。私たちサンアンドムーンがUXデザインの出発点を「情報の整理」に置くのは、階層設計こそがユーザーの行動を支える土台だと考えているからです。
視覚的階層とは——構造で語るデザインの「意図」
視覚的階層(Visual Hierarchy)は、情報の構造を視覚的な要素で伝える手法です。フォントサイズ、色、太さ、余白、コントラスト、位置関係などを使い、ユーザーの注意を「自然に」「段階的に」導いていきます。たとえば、見出しは大きく太くして、サブ情報は控えめなトーンで配置することで、「どこが重要なのか」「次に何を見るべきか」が視覚的に明確になります。これは「視線誘導」と呼ばれるテクニックにもつながり、ユーザーの思考負荷を減らすUX施策でもあります。
また、「強調」と「階層」は似て非なるものです。強調はひとつの要素にスポットライトを当てる行為ですが、階層はページ全体における情報の整理であり、視線の流れや認知の順番を設計するものです。階層設計は情報設計(IA)と深く結びついており、単なる装飾ではなく、ユーザー行動を制御する設計としての役割を果たします。
階層構造がUIを「ナビゲート」に変える
ユーザーは、明確な目的を持ってWebサイトやアプリを訪れるとは限りません。むしろ「なんとなく」訪れて「直感的に操作する」ことが多いため、UI側が「次に何をすればよいか」を示す必要があります。そこで有効なのが、明確な階層構造です。
たとえばあるアプリの旧デザインでは視線誘導が不十分で、テキストが小さく、色のコントラストも弱く、ユーザーが「何を見ればよいか」を直感的に判断しにくい状態でした。視覚的階層を意識したリデザインを行い、報酬情報が太字・大文字で強調され、ユーザーが迷わず目的の情報に到達できる構成に改善されました。このような変化は、UIの美しさ以上に「使いやすさ」へ直結します。ログインページなら「ログイン」が最上位に、ECサイトなら「カート」「購入」などのアクションが最も目立つ場所にあるべきです。
アクセシビリティの観点からも欠かせない
階層設計は、視覚的なユーザーだけでなく、音声読み上げや支援技術を使うユーザーにも恩恵があります。スクリーン・リーダーは、ページ内の見出し(h1, h2, h3…)をもとに情報の構造を判断します。見出しの順序が不適切だったり、階層が飛んでいたりすると、読み上げ順が混乱し、ユーザーは「いまどこにいるのか」「次に何があるのか」が理解できなくなります。そのため見た目だけでなく、コードレベルでの階層設計も非常に重要です。
モックアップ段階から階層を意識する
ワイヤーフレームやモックアップの段階で階層を考慮することは、プロジェクト全体の品質を左右します。この時点で「ユーザーが最初に見るべき情報は何か」「主要な導線はどこか」「補足情報はどう整理するか」を意識しておくことで、後工程のデザインや実装がスムーズになります。また、実際のユーザビリティテストでも、階層構造がUXにどう影響するかを検証する材料になります。
一度決めた階層構造も、ユーザーの声や分析結果によって見直す必要があります。「意図した視線誘導が機能していない」「重要な情報が見逃されている」などの兆候があれば、階層構造の再設計を行いましょう。階層は「固定されたもの」ではなく、「継続的に改善すべき構造」と捉えることが大切です。
まとめ
階層構造は、単なるデザイン手法ではなく、ユーザーとの対話を成立させるコミュニケーション設計そのものです。視覚的な整理に加え、情報設計、アクセシビリティ、ナビゲーション、そしてビジネスゴールまでも左右する要素です。情報の優先順位を整理し、論理的にグループ化し、適切に強弱をつけて視線を導く——その積み重ねが、すべてのユーザーにやさしいデザインを実現するための第一歩になります。
記事監修

中谷 浩和
株式会社サンアンドムーン|代表取締役
1976年創業のデザイン事務所を前身に、Webコンサルティング・UI/UXデザインを専門とする。
国際標準のUX設計プロセスを学ぶ Google UX Design Professional Certificate を取得し、 上級ウェブ解析士 としてデータ主導のサイト改善にも精通。デザイン思考を軸に、ユーザー認知・行動・文脈からWebサイトの課題を捉え直し、成果につながる設計へ落とし込むことを使命としている。システム設計、フロントエンド技術、SEO・パフォーマンス改善まで技術知識を横断し、サイト全体を見通したディレクションを得意とする。自動車メーカー、銀行・クレジットカード、保険などの大手から中小企業まで、数値で検証しながら改善を積み重ねる実践的なコンサルティングを提供している。




























