今回のテーマは、共感マップです。ユーザーインタビューなどで得た情報を「言う・思う・行う・感じる」の4象限に整理し、ユーザーの内面と行動を深く理解するこのフレームワークを、UX設計の視点から見つめ直していきます。
デザインの現場では「ユーザー中心」とよく言われますが、その実践は想像以上に難しいものです。インタビューで得た情報が膨大だったり、バイアスがかかっていたり、主観で判断されてしまったりする場面も少なくありません。共感マップは、そうした主観や情報の断片を構造的に整理することで、誰が見ても「このユーザーはこういう体験をしていたのだ」と納得できる状態をつくり出します。私たちサンアンドムーンがUXデザインの出発点を「ユーザーへの深い理解」に置くのは、単なる仮説ではなく、共通の理解に基づいた設計こそが、本当に使われる体験を生むと考えているからです。
なぜ共感マップが必要なのか
共感マップは、単なる可視化の手法ではなく、チーム全体がユーザーの状況や課題に対して同じ認識を持ち、プロジェクトの方向性を共通化するための重要なステップです。インタビュー後に情報をそのまま放置するのではなく、そこから得た声・行動・感情を整理し、解釈を加えて設計に結びつける。その一連の流れを担うのが共感マップの役割です。「なぜこの人はこんな行動をとるのだろう?」という問いを持ちながら活用することで、より本質的なUX課題を発見できるはずです。
共感マップの基本構成——4つの象限
共感マップは、以下の4つの領域に情報を分類して作成します。「言う(Says)」はユーザーが実際に発言したことです。インタビュー中のキーワードや印象的な発言を、言葉そのままに記録します。「思う(Thinks)」は口に出していないが、文脈や表情、態度から読み取れる思考です。「他にもっと便利なサービスがあるかも…」といった、発言の裏にある感情や価値観を想像して補足的に記述します。
「行う(Does)」はユーザーが実際にとっている行動です。たとえば「毎回パスワードをコピーして貼り付けている」のように、体験の前・最中・後における行動のフローを追うことで、思わぬ摩擦や工夫が見えてくることもあります。「感じる(Feels)」は体験に対する感情や印象です。イライラ、不安、安心、楽しい、といったポジティブ/ネガティブな感情を、強弱も合わせて検討します。これら4つをマップとして整理し、中央には対象ユーザーの基本情報や状況を記載します。
共感マップ作成時の5つの問い
インタビューや観察の情報をただ貼り付けるだけでは共感マップは機能しません。以下の5つの問いを通じて、ユーザーの体験全体を網羅的に捉えるようにしましょう。まず「このユーザーは誰で、どんな状況にいるのか?」という問いで、年齢・職業・家族構成といった属性に加え、製品を使っている文脈(在宅勤務中、外出先、店舗内など)を明確にします。次に「ユーザーは何を言っているのか?」で、インタビュー中のキーワードや名言的な発言を記録します。言葉はそのまま書き写すことが重要です。「ユーザーは何を思っているのか?」では、発言の裏にある感情や価値観を想像して補足します。「こう感じているのではないか?」という仮説ベースも含めて整理します。「ユーザーは体験の前・最中・後に何をしているか?」という問いで行動のフローを追うと、思わぬ摩擦や工夫が見えてきます。最後に「ユーザーは何を感じているのか?」で、体験におけるポジティブ/ネガティブな感情を特定し、感情の強弱も合わせて検討します。
共感マップの使いどころと効果
共感マップは、UX設計プロセスの初期フェーズで活用されることが多く、ユーザーの「行動」と「思考・感情」のギャップを明らかにする場面、潜在的なニーズやペインポイントを抽出する場面、ペルソナ作成やジャーニーマップ作成の前段階として、チーム全体にユーザーへの共通理解を浸透させる場面、上層部やステークホルダーに「ユーザー理解の深さ」を提示する場面などで特に役立ちます。付箋を使ったアナログな方法でも、オンラインのホワイトボードツールを使ったリモート協働でも、どちらの形式でも実践できます。
作成時の注意点
共感マップ作成においていくつか意識したいことがあります。思い込みや決めつけを排除し、事実と推測を分けて記述すること。チーム全体で議論しながら更新し、1人で完結させないこと。仮説ベースで書いてもよいですが、次に検証プロセスを設けること。感情表現には粒度を持たせること(「なんとなく不安」よりも「手順がわからず、失敗するのが怖い」のように具体的に)。これらを意識することで、共感マップの質が大きく変わります。
まとめ
共感マップは、単なる情報整理の枠を超え、ユーザーの感情や思考に寄り添うデザインプロセスを形にするための基盤となります。インタビューをして終わりにするのではなく、そこから得た情報を構造化し、解釈を加え、設計に結びつける。その一連の流れを担うのが共感マップの役割です。チームで共通の理解を育てながら、「この人はなぜこんな行動をとるのだろう?」という問いを持ち続けることが、本当に求められる体験を設計するための第一歩になります。
記事監修

中谷 浩和
株式会社サンアンドムーン|代表取締役
1976年創業のデザイン事務所を前身に、Webコンサルティング・UI/UXデザインを専門とする。
国際標準のUX設計プロセスを学ぶ Google UX Design Professional Certificate を取得し、 上級ウェブ解析士 としてデータ主導のサイト改善にも精通。デザイン思考を軸に、ユーザー認知・行動・文脈からWebサイトの課題を捉え直し、成果につながる設計へ落とし込むことを使命としている。システム設計、フロントエンド技術、SEO・パフォーマンス改善まで技術知識を横断し、サイト全体を見通したディレクションを得意とする。自動車メーカー、銀行・クレジットカード、保険などの大手から中小企業まで、数値で検証しながら改善を積み重ねる実践的なコンサルティングを提供している。




























