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複数デバイス時代のUX戦略──“最適化”より“統合”の思考へ

今回のテーマは、複数デバイス時代のUX戦略です。「各画面を最適化する」発想を超えて、「デバイスをまたいだ体験をつなぐ」思考へ——その考え方をUXの視点から見つめ直していきます。

現代のユーザーは、スマートフォン、タブレット、ノートPC、スマートウォッチ、さらにはテレビや車載ディスプレイまで、多様なデバイスを使い分けながら日常を送っています。それぞれの画面で断片的に完結するのではなく、状況に応じてタスクや情報収集を「横断的」に行っています。私たちサンアンドムーンがUXデザインの出発点を「行動の流れ」に置くのは、画面ごとの最適化ではなく、ユーザーの意図と行動に沿って、デバイス間の体験を滑らかに「接続する」発想こそが必要だと考えているからです。

戦略1:ユーザーの「行動コンテキスト」から設計を始める

UX設計において最初に考えるべきは、ユーザーがどのような状況・目的でデバイスを使っているかという「行動コンテキスト」です。たとえば、通勤中にスマートフォンで求人情報を検索し、自宅のPCでエントリーシートを作成する。あるいは、ソファでタブレットからショッピングをし、決済はスマートフォンの決済アプリで行う。このように、ユーザーの行動はデバイスごとに断絶しているのではなく、「つながっている」のです。したがってUX設計も、各画面ごとの最適化ではなく、行動の流れ全体を見通した「シナリオ設計」から始めるべきです。

戦略2:UIの「一貫性」ではなく「適応性」を重視する

UX設計でよく言われるのが「ブランドの一貫性を保つ」こと。しかし、これはすべてのデバイスで同じUIを再現するという意味ではありません。むしろ重要なのは、「そのプラットフォームに最適なUIに”適応”させること」です。たとえば、スマートフォンでは画面下部のナビゲーションが一般的であり、画面上部の操作は親指が届きにくく使いにくい場面もあります。ユーザーの期待する操作体験を裏切らないよう、UI設計は「環境」に合わせて柔軟に対応する必要があります。一貫性を持たせるのは「ブランドトーン」「情報構造」「動きのパターン」であり、UIの「見た目」を統一することが目的ではありません。

戦略3:コンテンツは「再利用」ではなく「再構築」する

マルチデバイス対応において、コンテンツをそのまま使い回すことは、むしろUXを損なう危険性があります。PCでは表組みで見せた製品比較表も、スマートフォンではスクロール負荷が高く読みづらくなります。こうした場面では、同じ情報を「違う見せ方」で再構築する必要があります。たとえばカルーセルやアコーディオンを使ったり、重要な項目だけを先に提示し詳細は遷移先に分けるなど、デバイスに適した再設計がUX向上につながります。また、ユーザーのタスクや意図によっても情報の見せ方を変えることが大切です。検索している段階では概要を、購入直前には詳細スペックを——「コンテンツの意義そのものを文脈に応じて調整する」ことが、マルチデバイス時代の本質的UX設計です。

戦略4:プロトタイピングで「つながり」を可視化・検証する

頭の中にあるユーザージャーニーや設計意図は、プロトタイピングによって初めて「共有可能な体験」となります。プロトタイピングツールを活用することで、アートボード間をリンクしてユーザー行動を視覚化し、タップやドラッグ、ホバーといったトリガーで各デバイスのUI操作を再現し、複数サイズのプレビューでスマートフォンとPCの見え方を比較・調整し、関係者とのレビューやフィードバックを効率化できます。プロトタイピングを通じて「どの画面から、どのデバイスで、何をするか」を視覚的に描き、体験の「断絶」がないかを見つけ出すことが、設計の完成度を大きく高めます。

戦略5:チームで「横断体験」をつくるための連携体制

UX設計はデザイナー単独で完結する業務ではありません。特にマルチデバイス対応では、情報設計者、UIデザイナー、エンジニア、コンテンツ担当者、ディレクターなど、異なる専門領域の連携が不可欠です。技術面では、コンテンツ管理の仕組みやプログレッシブウェブアプリの導入によって、デバイスごとに適切なデータ取得や体験設計が可能になります。デザイン面では、共有されたプロトタイプをもとに、職種を越えて議論できる環境が重要です。体験の「つながり」を設計するには、組織内の「分断」を減らすこと。戦略的UX設計の実現には、チーム内の体制設計も同時に行うことが求められます。

まとめ

マルチデバイス時代において重要なのは、「どのデバイスにも最適化する」だけでなく、「異なるデバイス間を横断しても、ユーザーの目的がスムーズに達成できる体験」を設計することです。画面単位での最適化ではなく、ユーザー行動や利用シーンに沿った情報設計、プラットフォームへの適応性、そしてプロトタイピングによる検証プロセスが求められます。さらに、設計・デザイン・開発・コンテンツの各チームの連携によって、断続的ではなく統合的なUXを提供する基盤が整います。「行動のつながり」を設計することが、ユーザーに選ばれる体験への第一歩になります。

執筆・監修

中谷 浩和

中谷 浩和

株式会社サンアンドムーン|代表取締役

1976年創業のデザイン事務所を前身に、Webコンサルティング・UI/UXデザインを専門とする。国際標準のUX設計プロセスを学ぶ Google UX Design Professional Certificate を取得し、上級ウェブ解析士 としてデータ主導のサイト改善にも精通。Google Project Management Professional Certificateも取得。デザイン思考を軸に、ユーザー認知・行動・文脈からWebサイトの課題を捉え直し、成果につながる設計へ落とし込むことを使命としている。システム設計、フロントエンド技術、SEO・パフォーマンス改善まで技術知識を横断し、サイト全体を見通したディレクションを得意とする。自動車メーカー、銀行・クレジットカード、保険などの大手から中小企業まで、数値で検証しながら改善を積み重ねる実践的なコンサルティングを提供している。

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