今回のテーマは、ゲーム体験がUIデザインに与えた影響です。「→」という記号がなぜ「進む」を意味するのか——その背景にある文化的体験を、UX設計の視点から読み解いていきます。
私たちが日常的に目にする「→」というアイコン。Webサイトのボタン、アプリのページ送り、スライダーなど、あらゆるインターフェースで「次へ」や「進む」という意味で使われています。これは視覚言語(ビジュアルランゲージ)と呼ばれるものの一種であり、さらにその背景には「メンタルモデル」としての刷り込みが関係しています。私たちサンアンドムーンがUI設計の出発点を「ユーザーの前提」を読み解くことに置くのは、こうした記憶や習慣、文化的背景に目を向けることが、直感的で心地よい体験設計につながると考えているからです。
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「→」に意味がある理由:視覚言語とメンタルモデル
私たちが「→」を見ると「次へ」や「進む」という意味で即座に理解できます。この解釈は、視覚言語として広まったものであり、さらにその背景にはメンタルモデルとしての刷り込みが関係しています。メンタルモデルとは、ユーザーが過去の経験をもとに無意識に思い描く「こうすれば、こうなるだろう」という思考パターンのこと。つまり「矢印を見ると進むと感じる」のは、過去にそうした体験を繰り返してきたからです。視覚言語は、言語を越えて共通理解を形成するツールとして非常に重要ですが、その背景にある文化や経験が異なれば、意味の受け取り方も変わる可能性があります。
ゲームがもたらした「進行感覚」——マリオの功績
「右に進むとステージが進む」という感覚を社会に広めた代表的な存在として、任天堂のファミコン用ゲーム『スーパーマリオブラザーズ』があります。ゲーム内では、主人公マリオが常に右方向へ移動することでステージを進行し、ゴールへ向かいます。当時の子どもたちは、何度もこの「右に進むことで新しい世界が現れる」体験を繰り返しました。この一連の操作体験は、単なる遊びを超え、「右=前進」「左=後退」という感覚を身体的に学ぶプロセスでもありました。そしてこの感覚は、成長してからも無意識に行動の前提となっていきます。つまり、このゲームは、UIにおける「→」の意味づけを形づくった、非常に強力な文化的体験の源ともいえるのです。
UIとゲームデザインの交差点
ゲームデザインとUI設計は、ユーザーが情報とどのように関わるかという点で、非常に多くの共通点があります。たとえば、HPゲージやミニマップ、インベントリの並び順、レベル選択画面などは、ゲーム独自のUIとして定着してきましたが、これらの構造やレイアウトは、現在のWebサイトやアプリUIにも強く影響を与えています。また、ゲームでは「プレイヤーの操作に対する反応」が極めて重要です。ボタンを押すと即座にキャラクターがジャンプしたり、敵が反応したりすることで、ユーザーは「操作している」という実感を得ます。この反応速度やフィードバックのあり方は、UXにおいても重要な指標です。レスポンスが遅ければユーザーは不安を感じ、スムーズな反応があれば気持ちよく操作を継続できます。
文化の違いがUXに与える影響
とはいえ、「右が前進」という感覚が通じるのは、あくまで一部の文化圏に限られます。たとえば、アラビア語やヘブライ語のように右から左へと文章を読む文化圏では、「左方向が進行」と捉えられる場合もあります。このように、UI記号は一見グローバルなようで、実は非常にローカルな体験に根ざしていることが少なくありません。そのため、グローバルなアプリケーションやWebサービスでは、こうした文化的前提を慎重に扱う必要があります。UI設計では「ローカライズ(現地化)」のプロセスが重視され、言語の翻訳だけでなく、アイコンや操作フロー、レイアウトの方向性まで見直されることもあります。UXデザインにおいて、ユーザーの「前提」を読み解くことは、設計の出発点なのです。
ゲームから学ぶUI/UX設計のヒント
ゲームには、UI/UX設計に活かせるヒントが数多く詰まっています。たとえば、ゲームのチュートリアルは、新しい操作やルールを自然に学ばせる優れた「オンボーディング体験」の一種です。Webサービスの初回ガイドやフォーム入力のヒント表示なども、同様の考え方に基づいています。また、ユーザーにとって「自分で選択した」という感覚を持たせる設計も、ゲーム体験から学べる大切な要素です。ゲームでは複数の選択肢を提示し、プレイヤーに自由な行動を促すことで、主体的な体験が生まれます。UI設計でも、「押したくなるボタン」「選びたくなる導線」を配置することで、自然なナビゲーションを形成できます。さらに、ゲームにおける「気持ちいい操作感」——たとえば、ジャンプした瞬間の音、敵を倒したときの演出などは、UXの文脈で言えば「報酬のフィードバック」と捉えられます。
まとめ
「右矢印=進む」という直感は、私たちが子どもの頃に体験したゲームから無意識のうちに形成されたメンタルモデルです。このような文化的体験は、UIデザインの背後にあるメンタルモデルとして、現在のWebやアプリの設計にも深く影響しています。UI/UX設計においては、こうした記憶や習慣、文化的背景に目を向けることが、直感的で心地よい体験設計につながります。ゲームというエンターテインメントの枠を超えた学びが、デジタルプロダクトの未来をより豊かにしていくための第一歩になります。
記事監修

中谷 浩和
株式会社サンアンドムーン|代表取締役
1976年創業のデザイン事務所を前身に、Webコンサルティング・UI/UXデザインを専門とする。
国際標準のUX設計プロセスを学ぶ Google UX Design Professional Certificate を取得し、 上級ウェブ解析士 としてデータ主導のサイト改善にも精通。デザイン思考を軸に、ユーザー認知・行動・文脈からWebサイトの課題を捉え直し、成果につながる設計へ落とし込むことを使命としている。システム設計、フロントエンド技術、SEO・パフォーマンス改善まで技術知識を横断し、サイト全体を見通したディレクションを得意とする。自動車メーカー、銀行・クレジットカード、保険などの大手から中小企業まで、数値で検証しながら改善を積み重ねる実践的なコンサルティングを提供している。






























