今回のテーマは、UXを「再現可能な思想」にすることです。知識を持つことと、組織として再現できることの間には大きな距離があります。サンアンドムーンは、表層ではなく認知から設計するという姿勢を、個人のセンスにとどめず組織の文化として根づかせることを目指しています。
「いいUX」はなぜ再現されないのか
優れたUX設計が実現できたプロジェクトがあった。しかし次のプロジェクトでは同じ品質が出せなかった——こうした経験はWeb制作の現場では珍しいことではありません。その多くの原因は、「担当者の個人的なセンスや経験」に依存していたことにあります。人間の認知の仕組みや行動の傾向を理解していたとしても、それがチームの共通言語になっていなければ、プロジェクトが変わるたびに設計の質は揺らぎます。UXはセンスではなく、再現可能な設計思想でなければなりません。そのためには「なぜそう設計するのか」という根拠を、チーム全体で共有できる状態をつくることが必要です。
「人間理解」を組織の共通言語にする
無意識の意思決定、錯覚の仕組み、注意の構造、視線の動き——これらはすべて「人間はどう動くのか」という問いへの答えです。重要なのは、これらを「知っている」ことではなく、設計の判断基準として「使える」状態にすることです。たとえば「ユーザーはシステム2(熟考)ではなくシステム1(直感)で操作している」という理解が共有されていれば、「直感的にわかる設計か?」という問いがチーム内で共通の判断基準になります。専門的な知識が「チームの言葉」になったとき、設計の品質は個人の力量に依存しなくなります。
UXはプロジェクトではなく、文化である
UXへの取り組みが「プロジェクト単位のタスク」にとどまる限り、その成果は一時的なものになりがちです。UXを継続的に機能させるためには、「ユーザーへの問い」が日常的な設計判断の中に組み込まれる必要があります。ユーザーテストの結果を議事録ではなくデザイン判断の根拠として記録する、「なぜこの設計か」の説明をデザイン決定の際に必ず言語化する、ユーザーの反応を定期的に振り返るレビューの場を設ける——こうした小さな実践の積み重ねが、組織の設計文化を育てます。
再現可能なUXをつくるために
人間の認知の仕組みを前提にした設計は、特定の天才でなくても実践できます。そのためには、知識を「なぜそうするか」の根拠として設計に接続し、根拠を言語化してチームで共有し、共有された根拠を設計判断のチェックリストにすることが必要です。サンアンドムーンでは、表層的なUI改善にとどまらず、「人間はどう感じ、どう判断し、どう行動するのか」という問いを設計の基盤に置きながら、クライアントとともにUXを育てていきます。一人の専門家の経験に依存しない、チームで再現できる設計の仕組みをつくることこそが、UXの本質的な価値を組織に根づかせる道だと考えています。
まとめ
UXの品質を再現するためには、個人のセンスではなく「チームの共通言語」としての設計根拠が必要です。「人間はどう動くのか」という理解を知識にとどめず、設計判断の基準として日常的に使える状態にすること。その積み重ねが、UXをプロジェクトから文化へと変えます。再現可能な設計思想をチームで育てることが、長く価値を出し続けるUXへの第一歩になります。
記事監修

中谷 浩和
株式会社サンアンドムーン|代表取締役
1976年創業のデザイン事務所を前身に、Webコンサルティング・UI/UXデザインを専門とする。
国際標準のUX設計プロセスを学ぶ Google UX Design Professional Certificate を取得し、 上級ウェブ解析士 としてデータ主導のサイト改善にも精通。デザイン思考を軸に、ユーザー認知・行動・文脈からWebサイトの課題を捉え直し、成果につながる設計へ落とし込むことを使命としている。システム設計、フロントエンド技術、SEO・パフォーマンス改善まで技術知識を横断し、サイト全体を見通したディレクションを得意とする。自動車メーカー、銀行・クレジットカード、保険などの大手から中小企業まで、数値で検証しながら改善を積み重ねる実践的なコンサルティングを提供している。






























