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『味方』になるデザイン:a11yが示すUXの未来

今回のテーマは、アクセシビリティ——Web制作の現場では「a11y(エイ・イレブン・ワイ)」と略して呼ばれる考え方です。誰もが等しく情報にたどり着けるWebサイトとはどんなものかをUX設計の視点から見つめ直していきます。

電車のなかで音を出せず、動画の字幕を目で追った。料理の途中で手がふさがり、声でスマートフォンを操作した。そんな「ちょっとした不便」は、きっと誰の一日にもひそんでいます。実はこの感覚、障害のある方が日々向き合っている課題と、その根っこは驚くほど近いところにあります。私たちサンアンドムーンがUXデザインの出発点を「特定の誰か」ではなく「すべての人」に置くのは、まさにこの地続きの感覚を大切にしたいからです。

「a11y」という言葉に込められた、味方という意味

アクセシビリティは、英語の “accessibility” の頭文字「a」と末尾の「y」のあいだに11文字あることから、「a11y」と表記されます。略語としては少し変わった成り立ちですが、ここにひとつの偶然が重なります。読み方が、英語の「ally(味方)」とよく似ているのです。

偶然とはいえ、この符合はアクセシビリティの本質をうまく言い当てています。設計する側は、目の見えにくい方にとっても、耳の聞こえにくい方にとっても、その場の状況に縛られた方にとっても、いつでも「味方」でいられる。Webサイトをつくるとは、画面の向こうにいる一人ひとりへ静かに手を差し伸べる仕事でもあります。使いやすさとは、誰かの味方であろうとする姿勢から生まれるものなのです。

配慮は、特定の誰かのためだけのものではない

アクセシビリティと聞くと、「障害のある方への特別な対応」と受け取られがちです。けれど現場で設計を重ねていくと、その印象は少しずつ変わっていきます。誰かにとって使いやすく整えた仕組みは、結局のところ、ほかの多くの人にとっても快適だからです。文字を大きく、コントラストをはっきりさせる。それは視力の弱い方のためであると同時に、夕暮れの電車内でまぶしい画面を見ている人の助けにもなります。

そもそも不便とは、固定された一部の人だけに訪れるものではありません。生まれつきの障害のように、ずっと付き合っていく「永続的」なもの。腕を骨折してマウスが使いづらいといった「一時的」なもの。赤ちゃんを抱っこしていて片手しか空いていない、そんな「状況的」なもの。立場はいつでも入れ替わります。今日は何不自由なくWebを使えていても、明日は誰かの景色にぐっと近づいているかもしれません。だからこそアクセシビリティは、限られた配慮ではなく、すべての人へ向けた全体最適の考え方なのです。

支援技術という、もうひとつの目と耳

多様な使い手のことを考えるとき、欠かせないのが「支援技術(Assistive Technology)」への理解です。これは、障害のある方が暮らしや仕事をより自由に進めるための道具のこと。画面の文字を読み上げてくれるスクリーンリーダー、わずかな動きで操作できるスイッチ、聞こえを補う字幕や読み上げ機能など、その種類はさまざまです。

こうした道具は、いわば使い手にとっての「もうひとつの目と耳」です。たとえばスクリーンリーダーを頼りにWebサイトを訪れる方にとって、画像に説明文が添えられているかどうか。それは内容が伝わるかどうかを分ける、大きな分かれ道になります。見た目には現れない部分にこそ、設計者の配慮が問われるのです。支援技術の存在を前提に組み立てられたサイトは、それだけで多くの人に開かれた場所になります。

まず、自分たちで体験してみる

アクセシビリティを学ぶうえで、いちばん確かな方法があります。自分たちのWebサイトを、支援技術を通して体験してみることです。ためしにスクリーンリーダーを起動し、目を閉じて自社サイトを「聞いて」みる。それだけで、ふだん見えていなかった景色が立ち上がってきます。

どこで迷うのか。どの順番で情報が読み上げられるのか。ボタンの意図はきちんと伝わるのか。画面を見ているときには気づけなかった引っかかりが、耳を澄ますと次々に見えてきます。この小さな体験が、利用者への想像力をぐっと広げてくれます。私たちサンアンドムーンも、設計の節目でこうした「立場を借りる」確認を欠かしません。味方であろうとするなら、まず相手の景色を知ることから始めたいからです。

まとめ

アクセシビリティは、特定の誰かのためだけの特別な対応ではありません。永続的にも、一時的にも、状況的にも訪れる「不便」に寄り添う設計は、結果としてすべての人の快適さと公平さを支える土台になります。支援技術への理解を深め、ときには自分たちでその体験を借りてみる。そうした積み重ねが、画面の向こうの一人ひとりへ確かに価値を届けます。誰もが等しく使えるWebサイトを目指すことが、すべての人の味方になるデザインへの第一歩になります。

記事監修

中谷 浩和

中谷 浩和

株式会社サンアンドムーン|代表取締役

1976年創業のデザイン事務所を前身に、Webコンサルティング・UI/UXデザインを専門とする。
国際標準のUX設計プロセスを学ぶ Google UX Design Professional Certificate を取得し、 上級ウェブ解析士 としてデータ主導のサイト改善にも精通。デザイン思考を軸に、ユーザー認知・行動・文脈からWebサイトの課題を捉え直し、成果につながる設計へ落とし込むことを使命としている。システム設計、フロントエンド技術、SEO・パフォーマンス改善まで技術知識を横断し、サイト全体を見通したディレクションを得意とする。自動車メーカー、銀行・クレジットカード、保険などの大手から中小企業まで、数値で検証しながら改善を積み重ねる実践的なコンサルティングを提供している。

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