今回のテーマは、情報過多の時代に通用するUXの条件です。ユーザーの集中力が短くなった現代において、Webサイトがどう設計されるべきかをUXの視点から考えていきます。私たちサンアンドムーンがUX設計の出発点を「限られた注意力に応えること」に置くのは、ユーザーが関心を持ち続けてくれる設計こそが、体験の質と成果を左右すると考えているからです。
現代人の注意力はなぜ短くなったのか
スマートフォン、SNS、メッセージ通知、動画広告、タイムラインに流れる無数のコンテンツ——現代人の脳は日々、とてつもない量の情報にさらされ、刺激に慣れてしまった結果、一つのことに意識を集中し続けるのが難しくなっています。複数の研究が示すように、デジタルデバイスの普及によって情報過多の環境が生まれ、人がひとつのコンテンツに注意を払い続ける時間は、以前より短くなっています。Webの世界では「見る→離脱」の判断が数秒以内に行われます。つまりUXの第一印象でユーザーを惹きつけられなければ、機会はあっという間に失われてしまうのです。
「見る→離脱」が加速するWeb体験
初めて訪れたWebページで読み込みが遅かったり、目的の情報が見つけづらかったりすると、ユーザーはすぐに離脱します。その判断にかかる時間はわずか数秒です。「UXの第一印象でユーザーを惹きつけられなければ、機会は失われる」という現実に、私たちは向き合わなければなりません。ファーストビューのコピー、読み込み速度、ナビゲーションの明瞭さ——これらはすべて、ユーザーが「このサイトは自分のためのものだ」と判断するための材料です。
視覚が記憶を支配する——ピクチャー・スーペリオリティ効果
情報過多の時代に注目されているのが「ピクチャー・スーペリオリティ効果(Picture Superiority Effect)」という心理学の原理です。これは「人はテキスト情報よりも画像の方が記憶に残りやすい」というものです。言葉だけの情報は数日後にほとんど記憶に残りにくい一方、言葉と視覚情報(画像)を組み合わせると、記憶定着率が大幅に向上することが知られています。この効果はマーケティングやUX設計においても活かせます。SNS投稿に画像が加わるだけでエンゲージメントが大きく向上することも多く、視覚的な要素がコンテンツの印象と記憶に与える影響は非常に大きいといえます。
ユーザーをつかむUXのつくり方
限られた注意力の中でユーザーを引き止めるために、UX設計者やWeb担当者には次のような視点が重要です。ファーストビューを「問い」で引きつけることとして、「これは自分の知りたい情報だ」と感じてもらうための明確な問いかけや共感を誘うメッセージが有効です。ビジュアルを”意味”のある形で使うこととして、ただ写真やイラストを並べるのではなく、「見た瞬間に理解できるビジュアル」が重要です。サービス内容を一枚絵の図解にしたり、ステップをアイコンで示したりといった表現は、内容理解と記憶定着の両方に役立ちます。UIの迷いをなくすこととして、注意を引くだけではなく「すぐに次の行動に移れる」UI設計も必要です。ボタンの配置やラベル、リンクの文言など、小さな要素が「迷い」の有無を左右します。動きで”直感”に訴えることとして、人は動くものに反応しやすい性質を持っています。スクロールに応じたアニメーションや、ボタンのホバー演出など、適切なモーションデザインはユーザーの注意を引き、操作を促す力を持っています。なお、限られた注意のなかでは、画面に表示されているのにユーザーが気づかない、ということも頻繁に起こります。この「見えているのに見落とす」仕組みについては、「選択的注意とは?見えているのに見落とす脳の仕組みとUX設計」で詳しく解説しています。
まとめ
情報過多の時代において、ユーザーの注意はかつてより短くなっています。WebサイトやアプリのUXは、最初の数秒でユーザーを引き止め、次の行動を自然に促せる設計が求められます。ビジュアルと言葉の組み合わせ、直感的なUI、適切な動きの演出——こうした要素を丁寧に設計することが、限られた注意力の中でも「記憶に残る体験」をつくる第一歩になります。
記事監修

中谷 浩和
株式会社サンアンドムーン|代表取締役
1976年創業のデザイン事務所を前身に、Webコンサルティング・UI/UXデザインを専門とする。
国際標準のUX設計プロセスを学ぶ Google UX Design Professional Certificate を取得し、 上級ウェブ解析士 としてデータ主導のサイト改善にも精通。デザイン思考を軸に、ユーザー認知・行動・文脈からWebサイトの課題を捉え直し、成果につながる設計へ落とし込むことを使命としている。システム設計、フロントエンド技術、SEO・パフォーマンス改善まで技術知識を横断し、サイト全体を見通したディレクションを得意とする。自動車メーカー、銀行・クレジットカード、保険などの大手から中小企業まで、数値で検証しながら改善を積み重ねる実践的なコンサルティングを提供している。



























