今回のテーマは、記憶の限界とUX設計の関係です。人間が一度に保持できる情報には上限があり、その制約を理解して設計することが、使いやすいインターフェースづくりの鍵になります。
日々の生活の中で、「うっかり忘れてしまった…」という経験は誰にもあるものです。特に何かを”覚えておこう”とした瞬間に限って、すぐ忘れてしまう。実はこれ、人間の脳の構造にしっかりと理由があるのです。その鍵を握るのが「ワーキングメモリ(短期記憶)」の容量。私たちが一時的に保持できる情報には限界があり、平均して4チャンク(情報のかたまり)までといわれています。私たちサンアンドムーンがUXデザインの出発点を「認知の限界を前提とした設計」に置くのは、人間の記憶の仕組みを知ることが、ストレスのない体験づくりの基盤になると考えているからです。
買い物リストを頭の中だけで覚えてみると…
今夜の夕食にパスタを作ろうと決めたあなたは、スマートフォンを開かず、記憶だけを頼りにスーパーに向かいます。頭の中にある買い物リストはパスタ、トマト缶、ニンニク、オリーブオイル、バジル、粉チーズの6点。ところが、いざスーパーを出たあとで「あれ、バジル買ったっけ…?」と不安になったり、レシピを見返して「ニンニク忘れた!」と気づくことが多々あります。6つくらい覚えておけそうな気がしても、実際には3〜4つ程度しか保持できていないのが現実です。
「マジカルナンバー4」とは?
この記憶の限界を説明するのが「マジカルナンバー4」という考え方です。認知心理学の研究によれば、人間は文脈のない情報(例:ランダムな単語や数字)を保持する際、およそ4チャンクが限界であるとされました。かつては「7±2(5〜9個)」と言われていましたが、これは情報を意味づけしてチャンクとして扱った場合に限られます。つまり、脳は”なんでも覚えておける万能な箱”ではなく、限られた情報を一時的に置いておく小さな棚のような存在なのです。
チャンクの力で記憶は変わる
「チャンク(chunk)」とは、複数の情報を1つの意味あるかたまりとしてまとめたものです。たとえば「09012345678」という電話番号も、「090-1234-5678」と3つに区切ることで記憶しやすくなります。この”区切り=ハイフン”こそがチャンク化の実例です。買い物リストも同様に、「主食:パスタ」「ソース材料:トマト缶・ニンニク・オリーブオイル」「トッピング:バジル・粉チーズ」と意味でグルーピングすれば、6項目であっても「3チャンク」に圧縮でき、脳の記憶容量に収まりやすくなります。
UX設計でも役立つ「記憶の前提」
この記憶の限界は、WebサイトやアプリのUI/UX設計でも大いに活用できます。フォームの入力項目が10個以上ある場合、ユーザーは途中で内容を見失い、離脱してしまう可能性があります。これを防ぐためには、3〜4項目ごとにブロック化(ステップ分割)すること、カテゴリー分けで「記憶の負担」を減らすこと、そして「今なにをしているか」が常にわかるインターフェースを設けることが有効です。つまり、UXの良し悪しには「人間の脳の限界を理解しているかどうか」が深く関係しているのです。
まとめ
私たちが一時的に覚えられる情報は、平均して4チャンクまでです。買い物リストのような日常のシーンでも、チャンク化しない情報はすぐに記憶からこぼれ落ちてしまいます。Webサイトやサービス設計においても、「伝える量」ではなく「伝え方」にこそ工夫が求められます。認知の限界を前提とした設計こそが、ストレスのないユーザー体験をつくる第一歩になります。
記事監修

中谷 浩和
株式会社サンアンドムーン|代表取締役
1976年創業のデザイン事務所を前身に、Webコンサルティング・UI/UXデザインを専門とする。
国際標準のUX設計プロセスを学ぶ Google UX Design Professional Certificate を取得し、 上級ウェブ解析士 としてデータ主導のサイト改善にも精通。デザイン思考を軸に、ユーザー認知・行動・文脈からWebサイトの課題を捉え直し、成果につながる設計へ落とし込むことを使命としている。システム設計、フロントエンド技術、SEO・パフォーマンス改善まで技術知識を横断し、サイト全体を見通したディレクションを得意とする。自動車メーカー、銀行・クレジットカード、保険などの大手から中小企業まで、数値で検証しながら改善を積み重ねる実践的なコンサルティングを提供している。



























