間違いが起きたときは、本人の不注意だけで原因を決めず、使い方を判断した手がかりや、確認を支える仕組みも調べます。それが、次の間違いを減らす対策につながります。
第7回では、同じ製品から受ける印象や、自分にとっての意味を考えました。今回は、間違いが起きたとき、その理由をどう捉えるかを見ていきます。
初めて入る店で、引く扉を押してしまったとします。「自分がよく見ていなかった」と思うかもしれません。ただ、その扉には、引くことが分かる表示や形があったでしょうか。原因の捉え方によって、次に変えるものも違ってきます。
私たちサンアンドムーンは、誰かに注意を促すだけで終えず、画面や処理で確認を助ける方法を考えます。
この記事の要点
- 同じ押し間違いでも、判断を取り違えたのか、指が隣に触れたのかで対策が変わります。
- トヨタのポカヨケには、締め忘れを工具と連動して確かめ、ランプで知らせる例があります。
- 何を見て判断したかを調べ、表示や操作を変えたあとも確かめます。
責任の帰属──問題の理由を、誰や何に結び付けるか
責任の帰属(attribution of blame)とは、起きた問題の理由や責任を、誰や何に結び付けるかということです。ここでは、間違いの原因を確かめ、改善を考えるための見方として扱います。
扉の例なら、「本人の不注意」と判断すると、よく見るように注意する対策が浮かびます。一方、扉の形を見て押すものだと判断したことが分かれば、取っ手や表示を変える対策を考えられます。どちらが原因かは、押したという結果だけでは決められません。その人が何を見て、どう使うと思ったのかを確かめる必要があります。
ノーマンは、問題につながったシステムの特徴を調べ、設計を見直すことを提案しています。Norman「Commentary: Human Error and the Design of Computer Systems」 別の公開文でも、エラーに至った設備や手順の背景を調べる必要を述べています。Norman「Human Error? No, Bad Design」
トヨタの自働化──異常を見つけ、止められる仕組みをつくる
トヨタの「自働化(autonomation)」は、作業を機械に任せるだけの自動化とは区別されています。「働」の字には、人を表すニンベンが付いています。機械が異常を検知して停止したり、作業者が異常に気づいたときにラインを止められるようにしたりする考え方です。異常が起きたまま生産を続けないことと、人が機械を見張り続けなくてよいことが、公式に説明されています。トヨタ自動車「トヨタ生産方式」
この考え方を、単純なミスへの対処として具体化した例が「ポカヨケ(poka-yoke)」です。うっかりしたミスを防いだり、起きたミスを見つけられるようにしたりする工夫を指します。トヨタの工場見学サイトでは、組み付け工具と連動して、部品の締め忘れなどを自動的に確かめ、問題があればランプで知らせる例が紹介されています。トヨタ自動車「よくわかる『トヨタ生産方式』」
ここから私たちが学べるのは、「作業者がもっと注意すればよい」で対策を終えず、確認を支える仕組みも考えるということです。締め忘れた事実は調べる必要があります。そのうえで、本人の記憶や注意だけに頼らず、見落としに気づけるようにする。原因を調べることと、次のミスに備えることをつなげて考えられます。
この事例で紹介されているのは、締め忘れなどを見つけて知らせる仕組みです。ミスを起こす動作そのものを不可能にする仕組みとは、働き方が異なります。何を防ぎ、どこで気づかせるかを分けて見ると、Webサイトでも具体的な対策を考えやすくなります。
Webサイトでも、分かった原因に合わせて対策を選ぶ
仮に、管理画面で「保存」と「削除」が近くに並び、内容を残そうとした人が削除を押したとします。本人はどのボタンを保存だと思ったのでしょうか。それとも、保存を押そうとした指が隣のボタンに触れたのでしょうか。
文言の意味を取り違えたなら、名前や表示を見直す候補になります。指が隣のボタンに触れたなら、位置や間隔、操作した画面幅を確かめます。「押し間違い」という同じ結果でも、理由が違えば対策も変わります。
さらに、削除の前に対象を表示して確かめられるようにする、削除後に取り消せるようにする、といった案も考えられます。工場の装置をそのまま移す話ではありません。人の注意だけで支えていた確認を、画面や処理でどう助けられるかを考える応用です。変更後は実際に操作してもらい、迷わず保存できるか、削除に気づけるかを確かめます。
注意点
「人の不注意」を「すべて設計者の責任」に置き換えても、原因の確認にはなりません。何が判断に影響したのかを調べることと、誰が表示や処理を直せるのかを整理することを分ければ、責任の押し付け合いで止まらず、改善へ進めます。
よくある疑問
ミスをした本人への確認は必要ですか?
必要です。何を見て、どう使うと思ったかを確かめます。押したという結果だけで原因を決めると、対策を選びにくくなります。
ポカヨケは、ミスを絶対に起こさせない仕組みですか?
ミスを見つけて知らせる工夫も含みます。ここで紹介したトヨタの例は、締め忘れなどを自動的に確かめてランプで知らせるものです。
Webサイトでは、どこから見直せますか?
間違えた操作の理由を確かめるところから始めます。ボタンの名前や間隔、削除前の確認、取り消しなどから、原因に合う対策を選びます。
間違いを前提にした設計は、ユーザーは、必ず間違える|エラー前提設計でも紹介しています。自社サイトの操作や表示の見直しには、UI/UXコンサルティングをご案内しています。
参考文献
この記事の作成に参照した資料
原因をどう捉えるかは、誰に注意を促すかだけでなく、どこを変えるかに関わります。トヨタの自働化とポカヨケからは、異常を見つけ、人の確認を仕組みで支える考え方を学べます。私たちサンアンドムーンは、本人が何を見て判断したかを確かめ、画面や処理を変えられる担当とともに、次の間違いに備える方法を考えていきます。
執筆・監修

株式会社サンアンドムーン|代表取締役
1976年創業のデザイン事務所を前身に、Webコンサルティング・UI/UXデザインを専門とする。国際標準のUX設計プロセスを学ぶ Google UX Design Professional Certificate を取得し、上級ウェブ解析士 としてデータ主導のサイト改善にも精通。Google Project Management Professional Certificateも取得。デザイン思考を軸に、ユーザー認知・行動・文脈からWebサイトの課題を捉え直し、成果につながる設計へ落とし込むことを使命としている。システム設計、フロントエンド技術、SEO・パフォーマンス改善まで技術知識を横断し、サイト全体を見通したディレクションを得意とする。自動車メーカー、銀行・クレジットカード、保険などの大手から中小企業まで、数値で検証しながら改善を積み重ねる実践的なコンサルティングを提供している。


































