二人で料理をする場面を考えてみます。一人がレシピを確認し、もう一人が材料を量る。計量容器の目盛りや、切り終えた食材の置き場所を見ながら、次の作業を決めていきます。
このとき、必要な情報は誰か一人の頭の中だけにあるわけではありません。レシピには手順があり、目盛りには量の手がかりがあり、作業途中の食材にも進み具合が表れています。今回は、こうした人と道具のつながりから、作業の分かりやすさを考えます。
分散認知は、人と周囲のつながりを見る考え方
「認知」とは、情報を受け取り、理解し、判断する働きです。分散認知は、その働きを個人の頭の中だけに区切らず、人・道具・記録などの関係を含めて見る考え方です。
Hollan、Hutchins、Kirshの論文は、認知を調べる対象を個人から広げ、人同士や周囲の物との関わりを捉えています。情報が人と人の間や、人と道具の間をどう移るかを見ることで、作業全体を理解しようとします。Distributed Cognition
料理の例は、この考え方を説明するための仮の場面です。レシピを見て材料の量を知り、目盛りと照らして量り、量り終えたことを相手に伝える。その流れには、人の判断だけでなく、道具の情報と会話が関わっています。
情報があるだけでなく、次の判断につながるかを確かめる
レシピが置いてあっても、相手がどこまで作業したかは、それだけでは分かりません。切った食材が皿にある場合も、予定の量を切り終えたのか、まだ途中なのかを確かめる必要があるかもしれません。
「切り終えた分はこの皿に置く」と決めたり、「この材料は量り終えました」と伝えたりすると、相手が次の作業を判断する材料になります。何を見れば、何が分かるのか。その関係まで含めて考えます。
ノーマンはBeing Analogで、人と機械が、それぞれの得意な働きで協力する考え方を述べています。人が目的を考え、道具が計算や情報の表示を担うように、役割のつながりから作業を見ることができます。
申請画面では、状態と次の担当者をつなげる
Webの申請画面に当てはめてみます。申請した人、内容を確認する人、画面に残る記録が、一つの作業に関わる場面です。
画面に「確認中」とだけ表示されていたら、申請した人は結果を待てばよいのか、自分に追加の作業があるのか迷うかもしれません。「担当者が内容を確認しています。現在、あなたの追加操作は不要です」と示せば、状態と自分の行動を結び付けられます。
差し戻す場合には、「差し戻し」という表示に加えて、修正する項目と理由、次に修正する人が分かるようにします。確認する人が記録した内容を、申請した人が読み、修正して送り直す。その受け渡しを支えるのが、画面や記録の役割です。
ただし、表示が古ければ、今の作業と食い違うこともあります。更新日時や担当者を確かめられるようにし、実際の処理に合わせて記録が更新されることも確認します。状態の文字を置くだけで、必要な情報がすべて共有されるわけではありません。
記憶を道具で支える考え方は、忘れることを前提にデザインする|外部記憶UIでも紹介しています。自社サイトの表示や業務画面の見直しには、UI/UXコンサルティングをご案内しています。
参考文献
この記事の作成に参照した資料
作業を理解するには、人の頭の中にある知識に加えて、道具や記録にある情報、それを受け渡す流れにも目を向けられます。私たちサンアンドムーンは、誰が、何を見て、次にどう動くかがつながる画面を考えます。
執筆・監修

株式会社サンアンドムーン|代表取締役
1976年創業のデザイン事務所を前身に、Webコンサルティング・UI/UXデザインを専門とする。国際標準のUX設計プロセスを学ぶ Google UX Design Professional Certificate を取得し、上級ウェブ解析士 としてデータ主導のサイト改善にも精通。Google Project Management Professional Certificateも取得。デザイン思考を軸に、ユーザー認知・行動・文脈からWebサイトの課題を捉え直し、成果につながる設計へ落とし込むことを使命としている。システム設計、フロントエンド技術、SEO・パフォーマンス改善まで技術知識を横断し、サイト全体を見通したディレクションを得意とする。自動車メーカー、銀行・クレジットカード、保険などの大手から中小企業まで、数値で検証しながら改善を積み重ねる実践的なコンサルティングを提供している。


































